2024-07-24

不動産ファンドの副社長が個人でタクシー会社を買収!1億円超の案件を手出し「0円」で譲り受けできた理由とは

買い手(個人):Sさん(40代)

<個人の起業を目的としたM&A・買収事例>

 

不動産ファンドで、取締役副社長を務めるSさん。これまで個人での資産運用はしてこなかったというSさんですが、オーナーとして会社経営に携わることに興味を持ち、初めてのM&Aに挑戦します。

目を付けたのは、東北地方のタクシー会社。1億円を超える大型案件でしたが、銀行から融資を調達すれば個人でもM&Aができるだろうと戦略を立て、交渉に臨みます。

しかし、銀行から融資はおりませんでした。しかし、諦めようとしたSさんに、売り手様から予想外の提案が。結果的に「手出し0円」で買収に成功します。

稀有な譲渡契約が成立したのは、同じ方向を向いて経営のビジョンを描けたから。そして、東京で働くSさんだからこそ提供できる最先端の情報が、売り手様にとって魅力的に映ったからでした。

縁とタイミングに恵まれた今回のM&Aの全容について、Sさんにお話を伺いました。

【自由度高く挑戦ができるオーナー社長に憧れた】

- まずは、Sさんのキャリアについて教えてください。
メーカーの営業からキャリアがスタートして、2007年に不動産ファンドに転職し、かれこれ20年弱この業界にいます

今の会社には2020年に入社しました。部長職として入社後、すぐに取締役に任命され、現在は副社長としての2期目になります

こうしたキャリアですが、株や不動産など、自分自身の資産運用はほぼ行ったことがありませんでした。何度か検討したことはあったものの、繁忙期は仕事に夢中になってしまい、考えることが面倒になって辞めるといった繰り返しでした。

そのため、今回のM&Aは自分にとって初めての挑戦でした。

- なぜM&Aに興味を持つようになったのですか。
副社長という役職に就いて以降、取引先の役員や社長様とお会いする機会が増えました。中でも、オーナー社長とのお話がとても刺激的でした。皆さん苦労して事業や会社を大きくしていますし、それぞれの投資哲学をお持ちなんです。

そんなオーナー社長と話しているうちに、自分もオーナーになってみない限り、サラリーマンの域は脱せないと思うようになりました。たとえ副社長という決裁権のある立場であっても、会社の枠を超えた事業や投資に挑戦することはできませんから。

一方でオーナー社長は、面白いと思ったことにどんどん挑戦して、事業を多角化している方が多くて。とても魅力的ですし、オーナー社長だからこそできる意思決定だと思いました。

そこで、企業のオーナーを経験してみたいという思いから、M&Aに興味を持ったのです。周りのM&A経験者から、「個人でもM&Aに挑戦できるプラットフォームがあるよ」とTRANBIを紹介してもらって。

利用料を払えば成約手数料が無料というTRANBIの仕組みも気に入って、積極的に情報を探すようになりました。

- どのような条件で案件を探していましたか。
業種業態やエリアは問いませんでしたが、自走できるビジネスということが条件でした。今の仕事を辞めるつもりはなく、新しい会社に付きっ切りというわけにはいかないので。組織が整っていて、私が手を掛けなくても現場の業務が回る事業を探していました。



(※写真はイメージとなります)

【融資の調達に失敗して一度は断念も、提案された「退職金スキーム∔融資」】

- 今回、株式譲渡で購入した案件について教えてください。
東北地方の、社員数70名ほどのタクシー会社です。法人需要が安定して存在する地域に営業所を展開しているため、コロナ禍を経た現在でも自己資本比率35%超で、直近期の売上は2億円超、営業利益は1,500万円という案件でした。

自社でLPガススタンドを保有しているため、同業他社に比べて大幅な燃料費の削減が実現できる点や、インバウンド需要による将来性が見込める立地に土地を保有していることなども、案件の特徴として売り手様が挙げておられました。

- 譲渡希望金額が高額だったようですが、どのように資金を準備したのですか。
当初、売り手様の譲渡希望金額は1億1,000万円でした。当然ながら自己資金での用意は難しかったのですが、「金融機関から融資が調達できれば購入は可能だろう」と考えていました。

不動産ファンドで働いていると、パートナーさんや投資家の方から融資を調達して、数十億円や数百億円の不動産を購入することが当たり前なので、そうした考え方を持てたのだと思います。

LBO(レバレッジバイアウト、M&A対象会社の信用力に依拠して資金調達して買収する手法)ローンなどを利用できれば、9割ほどは金融機関から調達できて、手出しの資金は1割ほどで済むと思っていました。

そして、初回の面談の際に、売り手様に対して「融資を調達して購入したいと考えているので、金融機関を紹介してくれませんか」と依頼し、取引のあった銀行を紹介していただいて、売り手様に同行していただいた上で銀行を訪問したのです。

しかし、なんと融資はおりず。これは誤算でした。残念ですが仕方がないので、「融資が調達できなかったため、申し訳ありませんがお断りさせていただきます」と泣く泣く頭を下げました

すると、売り手様が「金額は8500万円に下げるよ。そのうち4200万は、私のタクシー会社から1年間の報酬分と退職金を出す形にしましょう。そして、残りの約4000万は私が融資します。それならSさんに買っていただけますよね」と提案してくださって。普通では考えにくいほど、恵まれた提案ですよね。

そのため、結果的には手出し0円で購入させていただきました。

- そのようなケースがあるんですね。どうして、それほど売り手様は「Sさんに買ってほしい」と思われたのでしょうか。
面談で意気投合したからだと思います。私の現在の所属先がベンチャー気質で勢いのある企業であるため、「そちらで成功している良い制度などは積極的にタクシー会社にも取り入れて、一緒に東北のタクシー業界を盛り上げていきたい」といったビジョンを語ったところ、Bさんが共感してくれたようで。

それにしても、ここまでのサポートをしていただけるケースは稀だと思います。

【売り手様の一族繁栄を託される立場に】

- Bさんのお人柄の印象はいかがでしたか。
とても好印象でした。実は、不動産ファンドの事業で、今回購入したタクシー会社と同じ県内で不動産開発を行っています。

地元のゼネコンさんと一緒に仕事をしているのですが、皆さん「地元で生きていくためには信頼が第一」という姿勢で、すごく誠実に仕事をされているんです。だからこそ、県民性にもともと良い印象を持っていました。

Bさんは、まさにその印象通りの方で、すぐに信頼できる方だと思えました。

- 後継者不在ということですが、ご家族や社員さんに引き継ぐことは難しいということだったのでしょうか。
専務を務めておられる方のことは非常に信頼されているので、ゆくゆく社長に就任して事業を運営してほしいと考えてらっしゃるとは思います。また、Bさんの娘さんも取締役に就任されているので、事業には携わっています。

ただ、オーナー視点を持って事業や会社を大きくしていく役割を任せられる方は、現時点では身の回りにいないと思われたようで、今回は私に託してくださったようです。

Bさんと話していると、いずれはお孫さんに経営を託したいのかもしれないなという意向を感じることがあります。

- その場合、社長として外部の方を招き入れるのが一般的なようにも感じますが、あえて一度株式譲渡をされるというパターンなのですね。
Bさんは69歳なのですが、お兄さんが70歳で急に亡くなってしまったこともあって、70歳を手前に財産分与でトラブルにならないよう、遺産整理をしているようなのです。

今回の株式譲渡以外に、Bさんが保有している不動産を買わないかという話もいただいて、加えて銀行とも交渉してくださってフルローンを組むことができるようになり、利回り10%以上の不動産を譲っていただくことになりました。

本当に感謝しかありませんし、「ゆくゆくは一族の面倒を見てほしい」とも言われています。いずれ私からBさんのお孫さんに会社を譲ってほしいという思いもあるようです。それまでの20~30年間は自分が会社を成長させて、良い状態で譲れたらと考えています。



(※写真はイメージとなります)

【「高額案件は、個人では買えない」と決め付けずに動いたからこその結果】

- M&A成立後は、オーナーとしてどのような関わり方をされていますか。
2か月に1度ほど東北に足を運んで、現在も引き続き社長を務めてくださっているBさんとともに、会社をより良くしていくためのディスカッションを行っています。

また、Bさんの繋がりで地元の方を紹介していただいたり、私が本業で繋がりのあるゼネコンさんを紹介したりして、地元を盛り上げる事業を一緒にできないかといったことも模索しています。

最近は、地元の銀行からBさんに対して、別のタクシー会社を立て直してほしいという相談が来ていて、「僕が立て直すから、ここもAさんが買うのはどう?」という話も出ています。

実は、今回購入したタクシー会社が10年前に倒産しかけていたときに、立て直したのがBさんでした。その経営手腕が地元で有名だからこそ、支援の限界を迎えた銀行からBさんのもとに相談が来ているようです。

- Bさんの経営手腕の優れた点はどんなところですか。
銀行から話が持ち込まれてすぐに、テコ入れすべきポイントとそれによって黒字化が見込めるかどうか、そのために必要な追加投資の金額や調達方法などを想定できることです。

引き受けて「どう再生しようか」ではなく、算段を立てた上で引き受けています。

たとえば、タクシーの車種。旧来のタクシー会社は、クラウンやコンフォートが多いですが、それらを燃費の良い車種に切り替えるだけで、かなりのコストダウンが可能です。

だから今回も、「1億円の追加融資でタクシーをすべて切り替えたら、ガソリン代を半分にできる」といった算段を立てていました。

理屈ではわかっても、なかなか実行までは難しい思い切った投資をできるところが、Bさんの凄さだと感じます。

- M&Aを通して苦労した点はありましたか。
銀行からの融資調達が想定通りにできなかったこと以外は、非常にスムーズでした。

契約書の確認は、内容が難しいため一人で確認するにはハードルの高い工程ですが、今回は大手法律事務所の弁護士の方に依頼させていただきました。

その方は、本業を通じて仲良くなり、プライベートで家族ぐるみの付き合いをしていることもあって、特別に無償で引き受けてくださいました(笑)。

会計や税務、労務領域のデューデリジェンスに関しては、先方の交渉代理人として入られていたM&A仲介会社様からご紹介いただいた、弁護士と会計士の資格を持っている先生に依頼しました。

ただ、作成いただいた内容については、また知り合いの弁護士の方に確認してもらって「問題ないですよ」ということだったので、安心して購入できました。

本当に、今回のM&A全体を通じて「縁」に助けられたと思っています。

普段、会社のチームメンバーに「自分ひとりですべての仕事をできるようになる必要はないんだよ。弁護士の先生や会計士の先生や不動産の専門家の方を味方に付けておけば、そうした方たちが助けてくれるから」と伝えているのですが、まさにそうした縁に恵まれたと感じています。

- タクシー会社をどのように発展させていきたいか、今後のビジョンを教えてください。
本業の会社はベンチャー気質で、「皆で会社を良くしていこう」という社風があります。せっかく自分が経営に関わるのであれば、タクシー会社もそうしたマインドセットに変えていきたいと考えています。

ただ、そうしたマインドセットになるためには、「事業を伸ばしていくことができる」と希望を持てるようなビジネスチャンスが必要です。

東北は、東京と違ってどうしてもビジネスチャンスが少ないからこそ、ポジティブな機運作りが難しいとも感じていて、新しい事業機会を模索しています。

人口減少の中では、ものを運ぶことに注力するのも一つのアイデアかなと。eコマースの伸長と比例して、地方にも物流施設が増えていますから。

貨客混載のタクシーもこれから始まるので、新しいニーズを切り拓いていきたいと考えています。

- M&Aへの挑戦を考えている方に対して、アドバイスをお願いします。
まずは動いてみることが大事だと思います。

今回のケースも、自己資金で余裕を持って買える案件ではなく、銀行融資の調達という手法を使えば購入できるであろう案件にチャレンジしてみたところ、調達には失敗したものの、売り手様の多大なるサポートに助けられて、購入できましたから。

また、大きな金額の案件でしたが、個人であることを理由に門前払いされることもありませんでした

もし問い合わせをする前から、「個人の申し込みなど受け入れてくれないだろう」と決めつけて諦めていたら、この出会いもなかったわけです。

今回の私の例は特殊かもしれませんが、何事においても、動いてみたら上手くいこうがいくまいが結果が出ます。上手くいけばOKだし、失敗したら考え方や取り組み方を変えればいいだけ。

縁とタイミングを掴みに行くには、まずは自分から動いてみることが重要だと感じます。

 

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